プロジェクト

PROJECT

建築家としてスラムで活動する 〜アトリエTAU 大井雄太さん〜

2021.09.23

こんにちは!国際協力サロンの渡邉です!

今回は建築家として活動するアトリエTAU 大井雄太さんをお招きした勉強会の様子を紹介します。

プロフィール写真

アトリエTAU  大井雄太 (おおいゆうた) さん
1988年、神奈川県川崎市出身。建築家(一級建築士)、環境活動家。東京都市大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了、建築家手 塚貴晴研究室。同年、栗田祥弘建築都市研究所入所。2020 年 atelier TAU を設立し、現在に至る。

建築家を志すまで

現在、建築家として社会問題や環境問題に取り組まれている大井さん。社会問題や国際協力というのに興味をもったきっかけはあるテレビ番組で紹介されたアフリカに学校を立てるプロジェクトの様子でした。

「日本で自分は何不自由なく学校に通えているのに、学校に行けない現状って本当にあったんだ。」

学校を建てている様子に感銘を受けた大井さんは、困っている人を助けるため、建築家を志すことを決意しました。

「寄り添う」ということ

大学院時代はタイのスラムの調査を実施。タイのスラム建築はどんな構造になっているのか、現状に対して何か改善できるものがあるのではないかと、スラムで過ごす人々と2週間をともに生活し調査を実施しました。

彼らの為に何かできることはないだろうか。そんな思いで始まった調査でしたが、しかしそこで感じたのは彼らの圧倒的な「幸福度の高さ」でした。

「彼らに対して何かをやろう ではなく、彼らの気持ちや生活に寄り添おうという気持ちが強く芽生えてきました。」

その後もスラムの建築はどういうものなか、建築の建ち方を学びつつ空間はどう作られているのか調査を継続。そんな中、バンコクのスラムでは政府圧力によって居住地が取り壊される話があり、スラムの人々の居場所がなくなってしまうことが予想されていました。

このスラムに住む人々というのは、元々スラム近郊の農村部に住んでいた人々であり、モンスーンによって農作ができなった農家の人々が職を求めてバンコクに移動しスラムに住んでいるという背景があります。

もしも彼らが村に帰れたら、居場所を撤去される不安から逃れ、安心した生活を取り戻せると同時に、彼らが農業に再び着手できればタイ国内における食料問題も改善されていく。

「農村に仕事があれば、出稼ぎに来た彼らは村へ帰ることができ安心した生活を取り戻せるかもしれない。更に仏教という彼らが信じられるものがそこにあれば、祈りを通して救われる人々も多いんじゃないかと考えました。」

スラムでの現地調査が終了し、彼らの状況を救える術はないかを考え、農村に彼らの”祈り”を尊重する寺院の設計を行うことになったのでした。

スラムでの居住地は、住民が自分で空間を作るセルフビルディングでできています。タイでの調査を通して見てきたスラムの設計を応用し、寺院も自分たち自身で作れるようなストラクチャーで空間設計を提案しました。

設計された寺院の様子

建築家として、できること

大学院卒業後は東日本大震災の被災地、福島を訪れました。建物が全く見られない、変わり果てた風景は悲惨なものだったと語ります。「ここに家を建てたい」と話すクラインアントと共に街を盛り上げる建築、街の要素から建築を作っていくことを提案しました。

津波によって崩れた山の土を採取し色味を作り、家の土壁を作成。また、再び街に活気が戻る未来を願って、窓を大きく設計し光が十分に入る構造にしました。

その土地に生まれ育った人たちの力によって、新しい建築スタイルを作っていくことも建築家として大事なことだと気づいた経験になりました。

福島での建築の様子

2020 年には atelier TAU を設立し、独立。一級建築士の資格を持つ建築のプロであると共に、現在は環境問題を考える環境活動家としても活躍されています。

「歯止めも効かずに進行する地球温暖化に対して私たちに今できることは、温暖化を止められるかもしれない未来の技術に期待を込めて、現代の我々がどうバトンタッチできるかだと常に考えています。」

そう語る大井さんが「子供たちが遊んで、学べる空間」をテーマに設計した美容室では、断熱材に生まれ変わったアップサイクルマテリアルを使用。

キューブ型にカットして壁に変え、商品を魅せる棚や、子ども達が物を挟んで遊べる空間を生み出しました。

「アップサイクル素材の壁を通して遊び、経験を作ることによって、子どもたちの未来に何か繋がるといいですね。」

美容室の様子

おわりに

「装飾的な建築が増えてきている中、先進国では本来の純粋的な建築の建ち方を学べなくなっている一方、スラムにある住居は人間味のある建て方がされていて、”住む”という欲望にピュアに答えている建築だと思います。

建築家の中でもスラムを肯定的に捉えられることは少ないと思いますが、一緒に生活をしてみて、何が本当に必要なのか、どんな空間があるべきか、そこに住む人にできる限り寄り添って考えることが本当に大切ですし、誰に関係なく、そういった気持ちでこれからも設計していきたいですね。」

日本、東南アジアから欧州まで、国内外を問わず様々な環境の中で生活を営む人々に寄り添い、建築を考えてこられた大井さんだからこそ得られたその価値観をダイレクトに伝えてくださいました。

途上国と建築・環境と建築。人に寄り添った建築の姿とは、自ずと環境にも優しい仕組みなっているのかもしれません。国際協力サロンのメンバーにとっても新たな視点から国際協力について学べた非常に新鮮な勉強会となりました。

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